建設業を個人で営んでいる場合、事業承継は頭を悩ます問題だと思います。

例えば、事業主が生存中に子に事業を譲ろうとした場合、その子に経営業務の管理責任者としての資格がなければ、他の誰かを経営業務の管理責任者に据えるしかありません。

しかし、家族経営の個人事業の場合、部外者を呼んでくるなどしたくないでしょうし、そもそもそれでは事業承継とはいえません。

これまで個人事業の場合、経営業務の管理責任者になれるのは、事業主又は支配人登記された支配人で、しかも許可業種に関して5年以上の経営に携わった経験がなければなりませんでした。

子に経営業務の管理責任者になる資格がないとなると、子を支配人登記して支配人にして5年待たなければいけないことになります。事業承継は今すぐできません。

そこで、いますぐ子に跡を継がせるなら、経営業務の管理責任者の資格のある現在の代表者である親を支配人登記して支配人にし、子を代表者にして新たに建設業許可の新規申請をするしかありません。

そうすれば、何とか許可番号は引き継げます。ただし、親が代表者だった個人事業は同時に廃業となります。

しかし、この方法では、新たに新規申請をしなければならないなど、手間とお金がかかります。

現在、事業を継ぐ担い手がいなくて廃業する中小企業が増加していることが大きな問題となっていますが、このような制度上の問題点も原因のひとつと政府は考えたようで、

令和元年6月12日に公布された建設業法の改正では、次のような改正がなされました。

1.許可基準の見直し

建設業の許可基準のうち、5年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者を置くこととする基準を、建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有する者として国土交通省令で定める基準に適合することに改める。(改正要綱抜粋)

この改正のポイントは、5年以上という経営業務の管理責任者としての経験年数の規制を撤廃したことです。

この記事の最初でも述べましたが、現行の建設業法では、個人事業の場合では、事業主又は支配人として5年以上の経営業務の管理責任者としての経験がないと許可が受けられないことになっています。

これが、改正法の施行後は、5年以上の経験がなくても、国土交通省が新たに定める基準を満たせば、経営業務の管理責任者になれるということです。

ただし、国が新たに定める基準については、現時点では詳しいことがまだ明らかにされていないので、今後、注視していく必要があります。

2.許可を受けた地位の承継

(1)建設業の譲渡及び譲受け並びに合併及び分割の際に、あらかじめ国土交通大臣等の認可を受けたときは、譲受人等は建設業の許可を受けた地位を承継するものとする。(改正要綱抜粋)

これが、まさに今述べている問題の核心です。

つまり、改正法が施行となれば、事業承継前に国土交通大臣等(知事許可の場合は知事)の認可を受ければ、新規に許可を受けなくても従前の許可を引き継げるというわけです。

ただし、認可の基準はまだ明らかにされていませんので、これについても注視していく必要があります。

ちなみに、事業主が死亡した場合はどうなるかというと、

(2)建設業者が死亡した場合において、国土交通大臣等の認可を受けたときは、相続人は建設業の許可を受けた地位を承継するものとする。(改正要綱抜粋)

相続の場合も、(1)の事業主が生存中と同様、国土交通大臣等(知事許可の場合は知事)の認可を受ければ、許可を引き継げるということです。

というわけで、建設業法の一部を改正し、許可基準を緩和することで、今後は事業承継の手続きも容易になってきますので、その点では、これから事業承継を行う建設業者の方は期待していいと思います。

ただし、知事等の認可の基準がどうなるのか、今後、注視していく必要があります。

なお、改正法の施行は、令和元年6月12日から1年6か月以内に実施されますので、令和2年中に施行されることになりますので、注意しておいてくださいね。